インタビュー

「ピザーラ ピザブラック」「KIRIN BITTERS」などヒットCMを連発。クリエイティブディレクター松尾卓哉氏に学ぶ「刺さるプレゼン」

株式会社17 松尾卓哉氏インタビュー|buddyz株式会社17 クリエイティブディレクター/CMプランナー 松尾卓哉さん

 

国内外の数々の広告賞で受賞歴を持つ、クリエイティブディレクターの松尾卓哉さん。「目立つ、そして、モノが売れる」広告をモットーに、数多くの大ヒット広告を世に送り出しています。消費者の心を動かす広告を生み出すには、まずはスポンサーである企業の心を動かすことが必要。今回は松尾さんへのインタビューを通じて、スポンサーの心に「刺さるプレゼン」をするための極意をひも解いてみたいと思います。

 
株式会社17 松尾卓哉氏インタビュー|ピザーラ|buddyz

株式会社17 松尾卓哉氏インタビュー|ピザーラ|buddyz

 

プレゼンでは、十分な準備に裏打ちされた
「自信」が人の心を動かす

――松尾さんはカンヌ国際広告賞やACC賞など、国内外の広告賞を多数受賞されています。最近では、「ピザーラ」の「ピザブラック」が話題ですね。賞を目指す若手クリエイターは皆、松尾さんの「プレゼンの極意」を知りたがっていると思います。

松尾 まず、プレゼンはテクニックや話し方では決まりません。基本的なスキルはあった方が良いと思いますが、本質ではありません。担当する商品やサービスを伝える快心の設計図を完成させ、プレゼン前の「準備」を十分に行えば、案への自信や実施できた時を想像したワクワク感が体全体からみなぎるもの。それが相手の心を動かすのです。

実際、スポンサー企業の社長など、決定権を持つ方の多くは、プレゼン資料はチラッとしか見ていません。プレゼンを行う人を見ています。「この人は、うちのことを分かっている。この人に任せたら、何とかしてくれそうだ」と感じてもらうことが大切です。

株式会社17 松尾卓哉氏インタビュー|KIRIN BITTERS|buddyz

株式会社17 松尾卓哉氏インタビュー|KIRIN BITTERS|buddyz

 

初めの「オリエン」がカギ。
万全の態勢で課題をつかみにいく

――なるほど! では松尾さんはプレゼン前に、どのような準備を行っているのですか?

松尾 「オリエンテーション」の場を大切にしています。そこで、企業側から広告したい商品やサービスなどの背景や秘匿情報を受け取ります。多くの場合、この中に本当の問題、課題が隠れています。その場の参加者が「言外に語る課題」も多いので、気を抜かず万全の状態で臨み、知りたいことを質問します。分かったふりはせず、少しでも疑問に思ったところはその場で確認することが大切です。この場で得た情報で、プレゼン内容のベクトルはあらかた固まります。

――この段階で、ほぼ固まってしまうのですか!

松尾 どんな素晴らしい商品、サービスであっても、100%完璧なものはありません。競合に比べて負けている部分もあるし、改善が必要な部分もあるでしょう。まず、自分が一人の生活者として反応する部分を大事にして、知らないことを理解するようにします。そして、自分の身体を通した言葉やアイデアで商品・サービスの魅力を的確に世間に伝えることが、我々の仕事。企業と生活者との深いコミュニケーションを促すためにも、オリエンテーションの場は何よりも重要視しています。

 株式会社17 松尾卓哉氏インタビュー|buddyz

 

自分自身が腹落ちするまで
「商品、サービスを知る」

――オリエンテーションの後は、どんな準備を?

松尾 その商品・サービスを「さらに深く知り」にいきます。食べ物ならば食べてみる、商品やサービスならば使ってみる。売り場に行く…などを繰り返して、まず、自分の中でのメリット・デメリットをつかみます。もちろん、世間の意見も参考にします。ターゲットとなり得る層を中心に、周りの人にヒアリングをして、感想やイメージを拾い、課題を洗い出します。それがつかめた後は、その課題にはどういう表現方法が最適かを考える作業に入ります。

――なるほど。まずはオリエンテーションでイメージを固め、その後に自分自身で商品やサービスを深く知りにいく。この2ステップを大切にしているのですね。

松尾 「ピザーラ」の場合、オリエンまでは「宅配ピザの中の一つ」という漠然とした印象しかありませんでした。しかし、いろんな話を伺い、生産者と直での食材の厳選調達、生地は老舗ベーカリーの名店とオリジナルで開発など、味へのこだわりとプライドが見えてきました。具を置く場所も、食べた時に口の中に味が広がる順番を考えて配置するなど、食べる人のことを考え抜かれていた。そこで、プレゼンまでの21日間で、ライバル会社のものも含め19回ピザを食べ、「宅配ピザの中でピザーラがダントツに美味しい!」と実感したのです。試食した周りの人々の意見も同様でした。なのに、生活者にその美味しさやこだわりがあまり伝わっていないのは、伝え方が間違っていると。それまでのCMでは、ピザのシズルカットばかりで、他社と差別化が図れていなかったのです。

 

「太鼓持ちクリエイター」から
人々の心に響く広告は生まれない

――確かに、「ピザブラック」が出てくるまでは、宅配ピザのCMといえば食材やピザ本体にフォーカスしたシズル感たっぷりのイメージ。どのピザ会社のものかは、ほとんど頭に残っていなかったかも…。

松尾 他社に比べて圧倒的に美味しかったので、他社と同じ伝え方ではもったいないと思いました。そこで、差別化できるビジュアルや言葉を作ろうと決め、ピザブラックに行き着きました。「CMはいいことしか言わない」の逆を取り、「食べる人のことを真剣に考えてきた“正しいピザーラ“を、悪のライバルがけなす」。その結果、ピザーラの魅力が前面に出る。美味しさと、そのこだわりが世間に伝わっていないジレンマは、オーナーや経営陣が一番感じていたのでしょう。だから、即答でOKを得ることができました。

――ピザーラを調べ尽くし、食べ尽くしたからこそ、プレゼンの場で気持ちが乗り、全身から思いが伝わったのですね。

松尾 コンペに勝ちたい一心で、スポンサーに耳触りの良いことばかりを言って持ち上げる「太鼓持ち」になっては、人々の心に響く広告は作れません。この仕事を生業にしている自分の価値もなくなります。しかし、プレゼンは自分の意見を主張する場ではありません。「こうあるべきだ」と相手の理想の姿を伝えることが重要。本当の問題を提示して、その商品やサービスの理想の姿を考え、それを実現するための方法はこれだと自信を持って伝える。それがプロの仕事だと、私は思います。

――松尾さん、ありがとうございました! 「刺さるプレゼン」は小手先だけではない、本質と真摯に向き合う姿勢から生まれるのだということが分かりました。今後もワクワクするCMを楽しみにしております。

 

株式会社17 松尾卓哉氏インタビュー|buddyz

松尾卓哉(まつお・たくや)
株式会社17 クリエイティブディレクター/CMプランナー。電通勤務後、オグルヴィ&メイザー・ジャパン(ECD)、オグルヴィ&メイザー・アジアパシフィック(リージョナル・クリエイティブパートナー)を経て、広告企画制作などを手掛けるクリエイティブ集団、株式会社17(ジュウナナ)を設立。カンヌ国際広告祭、クリオ国際広告賞受賞、アジア太平洋地域のクリエイター・オブ・ザ・イヤーで日本人初のファイナリスト受賞など、国内外の広告賞での受賞歴多数。

(撮影:木下治子)

CATEGORY:インタビュー

DATE:2015-09-30

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