イベントレポート

元Pepper開発リーダー・林要氏トークセッション「世界のどこにもない、心を満たすロボットとは?」

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人型ロボットPepperの元開発リーダーであり、現在は次世代型ロボットの開発に取り組む、GROOVE X株式会社 CEOの林要(はやし かなめ)氏。「便利さ」や「機能性」といった従来のロボットの考え方からは一線を画す“新種”のロボット、人々の「心に寄り添う」ロボットの開発を進めているは林氏に、ロボットへの想いをはじめ、現在取り組まれている事業や開発秘話を聞きました。ここでは、一部をご紹介します。(聞き手はクリエーティブ・プロデューサーの& Co.代表・横石崇氏)

 

スター・ウォーズの「BB-8」は
いったい何がすごいのか?

横石 林さんが新たに立ち上げたGROOVE X社がつくろうとしているロボット、いったいどんなものになるのでしょうか。

 僕らのロボットについては、残念ながらまだ詳しくお話しできないんです。なので、今日はヒントだけ(笑)。映画『スター・ウォーズ』シリーズに出てくる「C-3PO」と「R2-D2」というロボットがいますよね。金色で人型のと、白い丸っこいのと。喋るロボットか、喋らないロボットかという点でも対照的なロボットたちです。みなさんはどちらが好きですか。

横石 そういえば、最新作に登場した「BB-8」も丸っこくて、喋らないロボットですよね。

 そうなんです。「BB-8」ってすごいんですよ。何がすごいのか。あのロボットが劇中で何をしたかというと、託されたメモリを運ぶために、人の後ろをゴロゴロと付いていっただけです(笑)。メモリを運ぶだけだったらドローンのほうがよくないですか? その方が断然速いし安心です。

横石 確かに非効率的ですね。

 敵に追われながら地面を転がっていく。いやいや、ドローンの方が速いでしょって思うのに、製作者があえてBB-8に運ばせた理由は1つしかないと思うんです。BB-8って、ゴロゴロ人についてくるから、「かわいい」んですよ。

横石 そこですか(笑)

 誰がどう見てもかわいい。でもそれだけだとちょっと存在意義がないので、頑張って大そうな仕事をしているように演出してみたり、常に人と一緒にいるようなシナリオにしてみたりと。

じゃあ、どうして喋らないロボットが必要なのか? これは、「バーバルコミュニケーション」と「ノン・バーバルコミュニケーション」という話がキーになります。少しその話をしましょう。

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人が寂しいとき
猫が近寄ってくるのはなぜ?

 僕ら人間は、言語があるがゆえに相手との違いをすごく意識してしまう。でも、本当に要因は言語なのか、言語ではないケースもあるんじゃないか? そこで、動物と人を比較してみたいと思います。

身近な動物で考えると、犬や猫ですね。犬を飼っている人たちに聞くと、ほぼ全員「自分は犬の気持ちが分かる」と考えるし、「犬は自分の気持ちが分かっている」とも考える。猫を飼っている人たちは、「自分が泣いていると寄ってきてくれる、彼らは優しい」なんて言うわけです。

こうしたテーマは、世界中のいろいろな人が研究しています。猫がなぜ泣いている人に寄ってくるのかを研究した人もいて、猫が泣いている人のところに寄っていく理由は「興奮」であると。なぜ興奮するのかというと、飼い主の状態が「泣く」という平常ではない状態に変化したことで、何が起きているのか調べにきている、のではないかと。中にはネコ科の動物は、弱っている他の動物に対して「食えるかもしれない」というモチベーションが働くのでは、という人もいるようです(笑)。まあ、明確な理由はまだ分かっていないようなんですけどね。

横石 あれは「共感」ではなく、「調査だ」とか「食えるかも」という興奮だったんですね。

 犬も似たようなものなんです。犬が人間に共感しているという仮説は、世界中の研究者が一生懸命研究したのですが、今のところ飼い犬は「飼い主に何か異常が起きている」のを検知することはできて、状態を調査をしにきているのではないか、というのが有力なようです。なわばりを調べるという動機に近いと言えるのかもしれません。私たち人間が期待するように、「気持ちがわかるよ、辛いね、元気だしてね」と犬が思ってくれてるかというと、ちょっと違うのかもしれない。

横石 そんな研究結果は信じたくないです(笑)。

 それなのに、人は信じているわけです。研究結果がどうであろうが、犬を飼っている人は、「やっぱり俺はあいつの気持ちが分かるし、犬は俺の気持ちが分かってる」と言うわけですよ(笑)。研究結果とは関係ないんです。なぜそれが起きるのかというと、人間には「思い入れ」があるんですね。ここが面白いところで、人間とAIの大きな違いです。

人間は未来を低消費エネルギーで予測するために「エピソード記憶」というものを獲得しました。その名の通り、情報をエピソード、つまり物語にして処理するのです。何かがあったときに、僕らは過去の経験や読書などに基づき獲得した物語のフレームワークに当てはめて、こうなるんじゃないかと推測する。それゆえに未来予測が極めて簡単にできるわけです。

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言葉がないがゆえの
癒やしの効果に着目

 子どもの頃に物語をたくさん読ませるといいという話を聞いたことありますか?

横石 はい。よく言われますよね。

 あれはエピソード記憶の話で考えると正しいんです。子どもの真っさらな脳に、エピソードのフレームワークをたくさん入れると、どういう話になったらどうなるというストーリーが推測できる。だから子どもに物語を読ませるというのは、決して間違っていないんです。

ここから分かるのは、人というのは必ずしもフラットに未来を予測しているわけではないということ。単に過去のフレームワークのどれかに当てはめているだけだとも言える。物事を一面的にしか見られない人がいるとすれば、それはフレームワークの数が少ないということなんですよね。物事を多面的に見られるすごい人とかいるじゃないですか。ああいう人は、別にすごい脳を持っているわけではなくて、フレームワークの数が多いということなのかもしれません。フレームワークが多いことで、非常に省電力で未来が予測できるようになる。ここがまだAIにはできていない部分なんですね。

フレームワークがあるがゆえに、人は「思い込む」んです。普段は気ままな猫が、今日に限って寄ってきて手をペロペロ舐めた。こいつは俺のことを心配しているに違いない。本当は本能的に「異常発見、調査だ」と傍に来ただけかもしれないのですが(笑)、人はそうは思えない。フレームワーク上、そんな情報処理ができないのです。

横石 思い込みで人はできている。

 言葉でコミュニケーションするがゆえに違いにばかり着目したり、言葉がないがゆえに勝手にフレームワークに当てはめたり。人ってそういう特性があるわけです。その特性をうまく使って癒やしましょうというのが、いわゆるペットセラピーの類です。

自閉症の子がいて、人間のセラピストに半年かけても心を開けなかったのに、犬には数時間で心を開きました、ということが起こる。でも、犬にも心を開けない子もいます。そういう子たちにはイルカをあてるわけです。イルカに心を開けるのは、イルカにひどい目にあった人が今まで誰もいないから、悪い話がないからかもしれません。犬には吠えられた経験があったりして、一部の自閉症の子は心を開けない。イルカは見た目も優しいし、みんながポジティブなことを言うから、その思い込みから心を開けてしまうわけです。

そんなふうに、人に優しくするのはイルカだけではなくてロボットでもいいんじゃないか。僕らはそんなことを考えています。

横石 なるほど。随分と新しいロボットのヒントが出てきましたね(笑)。(了)

 

林 要(はやし かなめ)
GROOVE X 創業者兼 CEO1973年愛知県生まれ。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)に進学し、航空部で「ものづくり」と「空を飛ぶこと」に魅せられる。当時、躍進めざましいソフトバンクの採用試験を受けるも不採用。東京都立科学技術大学大学院修士課程修了後トヨタに入社し、同社初のスーパーカー「レクサスLFA」の開発プロジェクトを経て、トヨタF1の開発スタッフに抜擢され渡欧。帰国後、トヨタ本社で量販車開発のマネジメントを担当する。そのころスタートした孫正義氏の後継者育成機関である「ソフトバンクアカデミア」に参加。孫氏の「人と心を通わせる人型ロボットを普及させる」という強い信念に共感。2012年、人型ロボットの市販化というゼロイチに挑戦すべくソフトバンクに入社、開発リーダーとして活躍。開発したPepperは、現在のロボットブームの発端となった。同年9月、独立のためにソフトバンクを退社。同年11月にロボット・ベンチャー「GROOVE X」を設立。著書に『ゼロイチ』(ダイヤモンド社)。
横石 崇(よこいし たかし)
& Co.(アンドコー)代表取締役/TOKYO WORK DESIGN WEEK オーガナイザー。NHKなどで「若者がつくる未来」の象徴として取り上げられた、のべ1万人を越える参加者が集まる、新しい働き方の祭典「TOKYO WORK DESIGN WEEK」代表。1978年生まれ、多摩美術大学卒。テレビ局・新聞社・雑誌社・ポータルサイトなど様々なメディアサービスにまつわる新規事業開発を手がけるほか、コミュニティを軸にしたマーケティング戦略に注力。企業の組織開発や人材育成に携わるなど、クリエーティブ・オーガナイゼーション・カンパニーの会社経営者として9年目を迎える。2016年5月より「& Co.,Ltd(株式会社アンドコー)」を新設。2014年より、『WIRED』日本版のコミュニティ・コントリビューションを行う。編著書に「これからの僕らの働き方」(早川書房)。

CATEGORY:イベントレポート

DATE:2017-05-16

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