イベントレポート

コンテンツ発想がコミュニケーションを変える《広告業界注目のコンテンツプランナー・眞鍋海里氏トークセッション Part1》

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コミュニケーション大変革の時代において「広告」のあり方が大きく揺さぶられています。従来の広告手法では価値が生まれづらくなっている中で、これからの広告はどうなっていくのか? 全世界で1000万回以上再生され話題となったWeb動画「雪道コワイ」などを手掛ける注目のコンテンツプランナー眞鍋海里(まなべ かいり)氏に聞きました。(聞き手はクリエーティブ・プロデューサーの& Co.代表・横石崇氏)

 

なぜコンテンツプランナーを
名乗っているか

 眞鍋 僕は今、BBDO J WESTという外資のクリエイティブエージェンシーの日本法人で仕事をしています。東京にもI&S BBDO というグループ会社があって、福岡と東京を行ったり来たりするような生活になっています。

BBDOのフィロソフィーとして、ニューヨーク本社のトップであるアンドリュー・ロバートソンが「The WORK. The WORK. The WORK.」というフレーズを掲げています。これは「働け、働け、働け」ということじゃなく(笑)、「機能させよ」ということ。この「WORKする」「WORKさせる」という言葉は、僕らの打ち合わせにもよく出てきますが、人を動かし、市場を動かし、世界全体を動かしていく、そうした広告コミュニケーションを生み出し、コミュニケーションアイディアを開発するということが大事だという教えなんです。

横石 ステキなフィロソフィーですね。まさにWORKする仕事をしてこられた眞鍋さんが、どのようにして多くのヒット作を生むに至ったのかに興味があります。まずは眞鍋さんご自身のご経歴を聞かせてください。BBDOに入られたのはどういう経緯だったのですか?

眞鍋 いろいろありまして(笑)。僕は宮崎県で生まれて、大学では宇宙物理学を学ぼうとしたのですが、入学した途端に宇宙に興味がなくなってしまい、もともと好きだった音楽の道に方向転換しました。就活もせずにバンドばっかりやっていて、そのままタワーレコードで2年ほどバイヤーを。でもやっぱりちゃんと就職しないとヤバイよなと考えて、広告業界に入ったんです。

最初はコピーライターを目指したのですが、中途入社で未経験なので、百社以上履歴書を送っても1社も採用してくれませんでした(笑)。たまたま拾ってくれたのが福岡のWebプロダクション。ここで営業職をやっていました。その会社でWebサイトの制作やSEOなどデジタルの知識を身に付けたのですが、ちょうどその頃が、これからの時代はエージェンシーもデジタルやらなきゃいけない、みたいな話になりつつあった時。その波に乗っかる形で、現勤務先のBBDOに採用されたという経緯なんです。

横石 音楽業界でブラブラしていた時期を経て、広告の世界に身を投じたんですね。今はどのような仕事をしているんですか?

眞鍋 「コンテンツプランナー」という肩書きで仕事をしています。後でお話ししますが、「コンテンツ発想」という考え方をベースに置いているので、あえてコンテンツプランナーと名乗っています。仕事内容は、広告代理店で働く多くのクリエーターの方々と同じように、テレビCMをつくったり、アナログなグラフィック広告のコピーを書いたりもしますし、ミュージックビデオの制作にも携わりました。元々デジタル出身なのでWebのインタラクティブコンテンツをつくったり、SNSの原稿を書いたり、アプリケーションの開発やAR(拡張現実)の技術に触っていた時代もありましたね。特殊なところでは、集客のためにホラーハウスを作るという仕事もしました。

横石 自主企画というよりも、クライアントがいる案件なんですよね?

眞鍋 はい、クライアントは駅ビル施設の会社なのですが、その集客のために「訪問者」という名前のホラーハウスをプロデュースしました。広告で人を動かすというより、そこでしか体験できないものを作ってしまった方が人が集まるんじゃないか、広告ではなく体験を作った方が早いんじゃないかと考えたんですね。そうしたら、めちゃくちゃ人が集まりました(笑)。


▲「訪問者」

そんなふうに、手法はいろいろやっています。僕らがすべきなのはクライアントのコミュニケーションにおける課題解決。CMやグラフィックという手法にこだわる必要はないので、CMプランナーやコピーライターではなく、コンテンツプランナーという肩書で、コンテンツを軸にコミュニケーション領域全般をすべて考えましょうというスタンスなんです。

 

企画書の1ページ目に
「広告やめませんか?」

横石 コミュニケーション領域全般を考えるとなると、守備範囲が相当広くなります。

眞鍋 言ってみれば「何でも屋」なんですよ。何かを依頼されたら、まず課題を抽出してみて、ではその解決策って何だろうと、アウトプットや手法は後から考えるわけです。

横石 どんなことを相談されたり、依頼されたりしますか?

眞鍋 やっぱり「バズらせてくれ」というのが多いですね(笑)。今日ご来場の皆さんも日々の業務でクライアントからこの言葉をよく聞くと思いますが、僕のところもそういうオーダーが多いです。きっかけになったのが、3年ほど前につくった「雪道コワイ」というWeb動画です。それが話題になったことで、業界全体的にもバズらせるにはオンラインのビデオがいいんじゃないかのような潮流が出てきたんですよね。

クライアントは、北九州でタイヤ通信販売を手掛けるオートウェイという会社。ある冬の日に呼ばれて、スノータイヤの啓蒙をしたいというオーダーがあり、それを受けてつくったのが「雪道コワイ」という動画なんです。


▲動画「雪道コワイ」(※YouTubeより。公式は公開終了)

予算がなかったので数十万円で作ったのですが、結果的に動画は1000万回以上視聴されて、クライアントのWebサイトのアクセスも約20倍になり、タイヤも60万本ほど売れました。1本の動画ですごいことが起こったということで、業界的にも何かここにマーケットの攻略法があるんじゃないかみたいな話になって、その頃から「バズらせてくれ」というオーダーが増えていった気がします。

横石 まさに「コンテンツ発想」ということでしょうか。

 

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眞鍋 その通りです。コンテンツを軸にコミュニケーション課題を考えるということを僕はベースに置いています。「雪道コワイ」をクライアントに提案した時、プレゼンテーションの1ページ目に「広告やめませんか」というメッセージを置きました。まさに今日のトークセッションのタイトルと同じですね。これは正確に言うと、「広告という概念でコミュニケーションするのをやめませんか」という話です。

当初クライアントからのオーダーは動画広告を作りたいという話でした。通販を手掛ける会社なので、当時は「累計売上ナンバーワン」「こんなに安い」といった広告をつくっていたのですが、その延長で何かやってほしいというオーダーだったんです。この依頼を受けた時、僕はそうした広告に限られた広告費を投下しても、出稿額以上のことは絶対に起こらないだろうなと思ったんです。

であれば考え方を変えて、コンテンツという考え方でコミュニケーションを実施してみませんかと提案しました。事前の消費者調査で、オートウェイ社は認知率が低いということが分かっていた。だったらまず消費者の選択肢に入りましょう、そのためには広告という概念でコミュニケーションしてしまうと絶対に失敗するから、みんなが興味があってどんどん拡散していく、コンテンツという考え方でやりましょうと話したんです。

横石 広告じゃなくてコンテンツをつくるという考え方をクライアントに賛同してもらい、あの驚異的なプロモーションが生まれたのですね。

 

「広告なんてウザイ」。
もう広告では届かない

眞鍋 僕は日々アイディアを考えるという作業をしています。その際に特に気を付けているのが、「世の中の本音」という部分。アイディアを考える時にそれを忘れてしまいがちです。世の中の本音とはどういうことか。それは、一般の人たちは「広告なんてウザイ」と思っているということです。

自分も経験がありますが、ある動画を見たいと思ったのに、いきなり動画広告が流れてきて、しかもスキップできなかったら、めちゃくちゃイラつく(笑)。これが世の中の本音です。ユーザーが広告だと思っている状態でコミュニケーションを仕掛けていかないとならないとなると、相当つらい戦いです。だいたい一般の人にしてみれば、企業や自治体が言っていることになんて全く興味がないわけですから。

テレビCMもキツイ。ある調査によると今どきは8割から9割の人がCMを飛ばして視聴するんです。そもそもデバイス自体にCMをスキップする機能が付いている。そういうデバイスに、僕らは広告を打っていかないといけないという矛盾した現状があります。交通広告もそうですね。例えば中吊りは、通勤電車内での暇な時間に見てもらうということで成立していた媒体だったのですが、最近電車の中ではみんなスマホをいじっている。誰も中吊りなんて見ていないんですよね。

横石 みんなゲームや動画などインターネットサービスに熱中していますよね。

眞鍋 でも実はインターネット広告も厳しいんです。消費者がパソコンやスマホを見ているのであれば、そういうところ動画広告を流せばいいじゃないかという話になるのですが、そうは簡単にいかない。YouTubeなんて「第二の検索エンジン」と言われるくらいすごく便利なのですが、「YouTube広告」と検索すると予測候補として「うざい」「消す」「ブロック」「邪魔」といった結果が出るんですよね。みんなウザイと思っているんです。

ポスティングやチラシなどのアナログなワントゥーワンのコミュニケーションも苦戦しています。「チラシお断り」とブロックされるのは日常茶飯事で、集合住宅などでは郵便受け付近に備え付けのゴミ箱にそのまま捨てられるということが普通に起きているわけです。

もう、広告は届かない。そんなショックを今すごく感じています。

 

企業のメッセージが届かないなら
生活者に近づいてもらえばいい

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横石 広告は届かない、ですか。

眞鍋 今は、欲しい情報は自分で見つけられるから、押し付けられるものに興味を持てないわけです。ただ僕らはそういう世の中でコミュニケーションをつくり出していかないとならない。そうなった時に必要なのが、コンテンツ発想に考え方の軸を変える、コンテンツを軸にコミュニケーションを解決していくという考え方に転換していくということなんです。「アドバタイジング」ではなくて「コンテンツ」ですよと。

アドバタイジング、つまり従来の広告という概念は、企業側が商品やサービスに関するメッセージを生活者に届けるために、メディアを介してコミュニケーションしていました。ただ、今は前述の通りメディアのパワーが薄れている。生活者の興味は全然違う方向に向かっている状態で、両者の間にとても高い壁がそびえ立っている。この壁はさらに高くなっていくのではないかなと思っています。

それを解決するのがコンテンツなんです。企業側が一方的にメディアを介して伝えようと思ってもできないのであれば、生活者の方から近づいてきてもらえばいい。企業が伝えたいメッセージを、コンテンツを利用して伝えましょうという考え方です。従来のように、一方的に見せつける広告ではなく、ユーザー側から見に来てもらうようなコンテンツを作り出すという考え方にシフトしましょうよというのが「コンテンツ発想」です。

ここで、それを示す例を2つお見せしようと思います。1本目は数年前に作った「世界最速の新聞配達」という動画です。西日本新聞社がクライアントで、あるサービスをリリースしたことを知らせたいというオーダーに応えてつくったものです。見ていただいた後に、コンテンツ発想という考え方ではどういう構造になっているのかを整理してみたいと思います。


▲動画「世界最速の新聞配達」(YouTube)

眞鍋 西日本新聞の電子版が登場したことを知らせる広告で、「世界最速の新聞配達」というプロジェクトを立ち上げて、それをドキュメンタリーで追うという話。最後は、それすら裏切るという構造でつくりました。

横石 いいコピーが最後に入っていましたね。この企画は、コピーが先に決まっていたのですか?

眞鍋 この企画自体が実は結構特殊で、同じお題、同じ予算で6人のクリエーターが動画をつくるという企画だったんです。

横石 コンペみたいなことですか?

眞鍋 コンペに勝った人だけじゃなくて、全員が順番につくるんです。メンバーは結構すごくて、1回目は電通九州の左さんというクリエーターで、2回目は僕。その後も中島信也さん、黒田秀樹さん、山本高史さんと、そうそうたるメンバーが同じお題、同じ予算で動画をつくりました。「世界最速…」は、その企画でつくった広告です。これも50万回くらい見られたのかな。かなり低予算でつくったんですけど(笑)。

3年ほど前、カンヌ(注:カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル)に参加した頃に動いていた仕事で、渡欧のスケジュールまでに企画が終わらなくて、現地でフェスティバルに参加しながら作業していて。カンヌのグランプリを獲った名作で、スパイク・ジョーンズがつくった『Lamp』というIKEAのフィルムがあるんですが、「世界最速…」はそれと構造が一緒(笑)。感情をガーッと込めていって、最後に思いっきり裏切るという広告。僕はもともとその作品が好きで、カンヌの現地の雰囲気もあって、「ああいうのいいよね」みたいな感じで企画を進めていったんです。じゃあ、「いい情報がすぐ来る」「早い」ということを伝えるにはどうしたらいいかと考えた時に、何か壮大なことをやって、それより早いと言えばいいよねと考えて企画しました。

▲IKEA『Lamp』(※YouTubeより)

横石 人の心を動かす構造を知っている人がつくった作品だなと思いながら見ていましたが、まさかそこにスパイク・ジョーンズが出てくるとは(笑)。

眞鍋 全く一緒なんです、構造が。僕はあの作品が大好きなので、同じ構造を使ったという感じですね。

では、具体的にはどういう構造かというと、「世界最速…」のケースで企業が伝えたかったのは「qBizという電子版が出ましたよ。qBizという名前を覚えてくださいね」ということでした。従来の広告だと、例えばタレントが出てきて、スマホを見て、「便利だ、サクサク」みたいな感じで登場感を伝えるパターンになるのでしょう。でもそれを伝えられたとしても、別に知りたくないじゃないですか。

それだとユーザーには見たいというモチベーションがない。だから「世界最速の新聞配達」というコンテンツをハブにして伝えようと思ったんです。ユーザーは「世界最速の新聞配達って何だよ? 成功するの? 何これ、バカじゃないの?」みたいに、ただ単純におもしろい動画としての興味があるだけ。くだらないな、でもおもしろいなと思って見ていると、結果的に電子版が出たことが伝わるという構造になっているわけです。

 

ユーザーが見たいものを見せつつ
企業のメッセージも伝える

横石 もう1つの事例はどのようなものですか?

眞鍋 昨年つくった「ハイパーキックOL」というWeb動画で、KIWIというシューケアブランドがクライアントなのですが、これもコンテンツ発想でつくるとこういう動画になるという事例です。


▲動画「ハイパーキックOL」(※YouTubeより。公式は公開終了)

商品のメッセージは「足は1日でコップ1杯分の汗をかくというエビデンスがある。革靴やパンプスを履いているオフィスワーカーたちの足は強烈だよ。だからみんなシューケアしようね」ということ。でも、このメッセージを別に自分から知りたくないですよね? 見たいというモチベーションにならない。

だから「ハイパーキックOL」では、OLがオフィスで大暴れするという動画をハブにして伝えることにしました。ユーザーは商品のメッセージを知りたくてアクセスするわけではなく、OLがオフィスで大暴れする様を見てスカッとするというモチベーションでこの動画にアクセスしている。でも、最終的には商品が伝えたいメッセージをちゃんとコミュニケーションする構造になっているわけです。

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横石 あえてユーザーが見たいものを主に、企業のメッセージを従にしているのですね?

眞鍋 実は今までのアドバタイジングの考え方だと、企業のメッセージに重きを置いていて、ユーザー側の見にきたいというモチベーションをあまり考えていなかった。それに対して、コンテンツ内でユーザーの「見たいもの」を提供して、企業側が伝えたいことも一緒に分かるようにしようというのがコンテンツ発想の考え方なんです。

通常我々は、クライアントにおけるコミュニケーションの課題が何なのかを抽出して、それを解決するにはどういうメッセージがいいのかを設定しますよね。いわゆる「What to say」です。その作業が終わったら、あとはどう表現するかなのですが、表現の段階で商品とユーザーを対等に扱って一つのコンテンツをつくるという考え方が、コンテンツ発想の重要なポイントだと思います。今までは一方的に「to you」とメッセージをしていたのを、相手のことを考えた「for you」に変えるみたいな感覚が近いのかなと。

横石 企業が一方的に発信するアドバタイジング、広告という概念ではなく、ユーザーの方からアクセスするコンテンツの中でコミュニケーションをどう組み立てていくのかと考え方が変わってきているのですね。

>Part2「あきらめの先にアイディアが待っている」を読む

眞鍋海里(まなべ かいり)
BBDO J WEST、CUTTING EDGE コンテンツプランナー。1982年、宮崎市生まれ。大学卒業後、タワーレコード、WEBプロダクションを経て現職。従来の広告手法にとらわれず、”コンテンツ発想”を軸に次々と話題を生むコンテンツプランナー。AUTOWAYのWeb動画「雪道コワイ」は全世界で1000万回以上再生され話題に。最近では、paymo「Table Trick」、KIWI「ハイパーキックOL」、集中リゲイン「The Extreme Minuet」、「白衣は何人?」などの動画企画から、Instagram×スキンガード「Hidden Scary Summer」、ドラマ「ガチ星」スマホ連動施策、密室ホラーハウス「訪問者」プロデュースなどを手がける。
横石 崇(よこいし たかし)
& Co.(アンドコー)代表取締役/TOKYO WORK DESIGN WEEK オーガナイザー。NHKなどで「若者がつくる未来」の象徴として取り上げられた、のべ1万人を越える参加者が集まる、新しい働き方の祭典「TOKYO WORK DESIGN WEEK」代表。1978年生まれ、多摩美術大学卒。テレビ局・新聞社・雑誌社・ポータルサイトなど様々なメディアサービスにまつわる新規事業開発を手がけるほか、コミュニティを軸にしたマーケティング戦略に注力。企業の組織開発や人材育成に携わるなど、クリエーティブ・オーガナイゼーション・カンパニーの会社経営者として9年目を迎える。2016年5月より「& Co.,Ltd(株式会社アンドコー)」を新設。2014年より、『WIRED』日本版のコミュニティ・コントリビューションを行う。編著書に「これからの僕らの働き方」(早川書房)。

CATEGORY:イベントレポート

DATE:2017-05-29

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