イベントレポート

あきらめの先にアイディアが待っている《広告業界注目のコンテンツプランナー・眞鍋海里氏トークセッション Part2》

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コミュニケーション大変革の時代において「広告」のあり方が大きく揺さぶられています。従来の広告手法では価値が生まれづらくなっている中で、これからの広告はどうなっていくのか? 全世界で1000万回以上再生され話題となったWeb動画「雪道コワイ」などを手掛ける注目のコンテンツプランナー眞鍋海里(まなべ かいり)氏に聞きました。(聞き手はクリエーティブ・プロデューサーの& Co.代表・横石崇氏)

>Part1:「コンテンツ発想がコミュニケーションを変える」を読む

 

予算が少なくても
アイディアで挽回できる

横石 Part1では、「雪道コワイ」「世界最速の新聞配達」「ハイパーキックOL」というWeb動画の事例を挙げてもらいながら、「コンテンツ発想」について詳しく伺いました。いずれも見事にヒットした作品でしたね。

眞鍋 よく「どうしたらそういう(ヒットする)アイディアを考えられるのですか?」みたいな質問をされることがあります。

横石 人気者の宿命とも言える質問ですね。どんなふうに答えるのですか?

眞鍋 単純な話なのですが、アイディアはあきらめずに考えていれば出てくるものだと思うんです。僕が講師をするセミナーの受講生にも「あきらめの先にアイディアは待っているから、最後まで粘った人がいいアイディアに辿り着ける」という話をいつもしています。

横石 「あきらめの先にアイディアが待っている」。眞鍋さんが手掛けた作品で、まさにあきらめの先を象徴するような事例がありますよね?

眞鍋 「毛が生える広告」ですね。ビューティプランニングというクライアントの仕事で、無名の育毛シャンプーを話題にしたいというオーダーでした。予算は3万円。

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横石 3万円ですか!?  コミコミで?

眞鍋 コミコミ3万円です(笑)。ビューティプランニング社は僕の地元・宮崎のクライアントだったので、「分かりました」とだけ言ってお受けして(笑)、頑張って考えました。コンテンツ発想を用いて、あきらめずにやればいいアイディアにたどり着けるという事例として紹介したいと思います。

何をやったかというと、文房具店のペン売り場に、試し書き用の紙を設置してもらったんです。その紙に、禿げ頭の男性のイラストと、商品パッケージを印刷しておいた。ただそれだけなんです。

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横石 ペンを買いに来て試し書きをする人は、その禿げ頭に線を描く。すると、髪の毛を生やすことになるわけですね。育毛シャンプーとしての認知拡大が図れる上に、商品やブランドの好感度も上がる。これ、ホントお見事です。

眞鍋 予算がないので、デザイナーに「こんなふうにデザインして」と頼み、会社のプリンターで出力して、自分でカッターでちょうどいいサイズに切って文房具店に持ち込んだんです。「すみませーん、これ置いてくれませんか?」って(笑)。

横石 眞鍋さんが、自ら?

眞鍋 そう(笑)、お願いに行きました。もともと試し書きのコーナー自体はあって、白い紙がズラリと並んでいる。既にその状態でもペンを売るためには機能しているんです。でも、それに対してアイディアをプラスすることで、「おもしろいね」という反応が得られるわけです。

そこからは、今はソーシャルメディアの時代なので、勝手に拡散してくれるんですよね。「おもしろいよ、コレ」となれば、バンバン写真を撮って、どんどん広げてくれる。これもまた、コンテンツ発想なのだと思っています。そもそも機能しているものに対して、アイディアをプラスして、広告に変えてしまう。そんなことを考えながらいつも仕事をしています。


▲ZERO SCALPケースビデオ(※Vimeoより)

 

バズるコンテンツをつくるのは
サービス精神が強い人

 

横石 今日はもう2つだけ聞きたいことがあります。いいですか?

眞鍋 もちろんです。お手柔らかに(笑)。

横石 まず、バズる人とバズらない人がいると思うのですが、そこにはテクニックの差があるのですか? Part1の話で、「構造」というキーワードが出てきたので、もしかしたらこうすればバズるというような秘訣があるのかと思いまして。

眞鍋 テクニック的なことで、これをやればうまくいくというものはないのかなと思いますね。ただ、話題になるコンテンツを作っている人と作っていない人の大きな違いは、「サービス精神があるかないか」の差なのではないかと思います。

横石 サービス精神ですか。具体的にはどういうことですか?

眞鍋 基本的に、見る人がいかに楽しいと感じられるかだと思うんです。でもクライアントは、商品のため、商品のため、と考えがちで、受け手に受け入れられないと始まらないということを結構忘れてしまう。だから僕らはどうしてもクライアントと対立することが多いわけです。そんなとき僕は、一消費者の目線で「これ見ますかね?」とか「これおもしろくなくないですか?」とか言っちゃうんです(笑)。受け手側に対するサービス精神が強い人ほど、ちゃんと受け入れられるコンテンツが作れるのかなと思っています。

横石 それって、前職の経験が実を結んでいたりします?

眞鍋 それは少しあるかもしれないですね。Webの世界にいたので、施策の結果が数値化されるところのシビアな肌感覚が養われました。ウケる、ウケないという敏感なところが突き付けられるわけです。音楽でも映画でもコンテンツという面では同じで、受け入れられる構造には近いところがあると思いますね。

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横石 うまくいったものがある一方で、うまくいかなかったケースもあるのですか?

眞鍋 ありますよ。それは、自分の成功例をトレースした時(笑)。

横石 一度うまくいったものを、別のプロジェクトで応用してみたんですね。

眞鍋 はい。構造をそのままトレースしてしまったという……。見事に失敗しました。それもあって、以降はそのパターンは一切やらなくなりました。作る側の自分も、毎回チャレンジすること、新しいものに取り組むことが結局大事なんだなと思い知りました。

プロジェクトが進む中で、「これ、本当に実現するのかな」となるときがあるじゃないですか。そうなるとワクワクするんですよね。「あ、これ、もしかすると新しいものがつくられている途中だ」みたいに感じてワクワクする。同時に、見に来るユーザーからもワクワクを求められているんですよね。だからやっぱり、新しい体験をしてもらいたいということを一番に考えていますね。過去の成功例をトレースすると失敗します(笑)。

 

受け手の気持ちになりきり
どう感じたかを分析する

横石 なんか人生訓みたいですね(笑)。もう一つ聞きたいことは、クライアントへの説得の部分です。コンテンツ発想は、ユーザー側に立つと共感できると思うのですが、クライアントサイドをどのように納得させてチームを動かしていたのかをお聞きしたいです。

Part1の「雪道コワイ」のプレゼンのときのように、企画書で「広告やめませんか?」と書いてしまうと、代理店の営業担当者からしたら「いやいやちょっと待ってくれ、広告やめないでくれ」という話になるじゃないですか(笑)。通常はそのような周囲の理解や協力も仰ぎながら進めていかなくてはならないわけで、いったいどんなふうに説得しているのかなと興味があります。

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眞鍋 僕はわりかしストレートトークしちゃうんですよね(笑)。本当は空気を読まなければいけないのだと思うのですが。僕もせっかく頼まれたからには話題にしたいなと思いますし、そこをゴールとして約束するにはこうしなくてはいけませんよねという話し方を毎回しています。

あとよくやるのは、プレゼンで「What to say」「How to say」の順番で話して、「What to say」の部分でしっかり“握る”こと。まず課題はこうですよねと同意を得て、この課題に対する解決のメッセージはこういうことを言えばいいですよねとコピーを見せる。ここまでで「なるほど」とアグリーを取って、ここからは表現の提案ですと宣言するんです。表現の提案に入った時点で、クライアントに「もうここからは皆さんも一消費者の感覚でこのアイディアを評価してください」と言って企画を見せる。

そうするとクライアント的には安心するんです。このメッセージが届きさえすれば、コミュニケーションの課題はある程度解決できると納得がいっているので。そこから表現については一生活者としておもしろいか、おもしろくないかで判断できるわけです。

横石 左脳で握って、右脳で選ぶという感じですね。右脳に訴えかける表現案はどんなふうに考えているのですか?

眞鍋 その商品を買ってくれる人たちにどうしたら届くのかを考えています。だから考える場所は、実際にユーザーが多くいるところ、ユーザーに近いところでやるようにしていますね。モヤモヤしながら、これを買いたいと思うのはどういう人なのだろうなと、ものすごく考えます。

JK(女子高生)向けのコンテンツを考えたときも、JKがたくさんいるマクドナルドに行って、みんなが何に反応しているのだろうと観察したり、ヒアリングもしましたよ。実はすごい情報源になるんですよ、マックが(笑)。

横石 ヒアリングって、インタビューですか?

眞鍋 そうです。どんな企画でも、ユーザーに近い身近な人たちには、めっちゃ聞きますよ。最近は何がおもしろいと思っているの?とか。

横石 広告クリエーターには「その人になりきれるかどうか」という才能が求められると感じていましたが、まさにそうなのかもしれません。そのためにトレーニングをしたりするのですか?

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眞鍋 僕の場合、トレーニングというより、結構理系的な考え方をしているかもしれません。もともと「仕組み好き」なんですよね。理系的な仕組みだけではなく、人が何故こう思うのかという仕組みもとても好きなんです。

だから、受け手側になって考える。例えば、「女子高生はこう思っていた」という事実から、同時に「では何故そう思っているの?」みたいな思考をしていって、その構造を因数分解しているわけです。僕、すごく「分析野郎」なんです(笑)。

「俺、なんか今、おもしろいと思っているぞ」とか、「なんでこんなに感動したんだろう」のように、起こっていることの裏側を冷静に分析している自分がいる。そうなると、ユーザーがコンテンツを見に来るモチベーションを考え付きやすくなるんです。「ああ、そういうことか。だったら、こういう人はこんな動画の再生ボタンを押してくれるだろうな」と。

 

制約を超えようと努力するとき
おもしろいアイディアが生まれる

横石 「結局、見てもらえる広告をつくらなければ駄目だよね」ということはよく聞く話です。では、何から考え始めて、どのあたりでこれなら見てもらえるだろうとジャッジしているのですか。条件みたいなものがあれば教えてください。

眞鍋 どうすれば見てもらえるのかという話は、僕がセミナーなどでよく話す「バズの必要条件」と通じてくると思います。当たり前ですが、第一に再生ボタンを押してもらわなければいけない。第二に、シェアしてもらう。第三に、話題を取り上げてもらうこと。僕がゴールとしているところは、この三つの条件がクリアできるという状態です。

一つ目の、再生ボタンを押してもらうというのは、Part1で話したように、コンテンツを見に来るモチベーションをきちんとつくってあげることが重要です。

二つ目の、シェアしてもらうという点は、僕は「出口の設計」と呼んでいるのですが、「コンテンツを体験した人が何かを言いたくなるか」がポイント。SNSは発言のツールなので、SNSでシェアしてもらうには「発言したくなる動画」であるかどうかが基準になります。

三つ目の、メディアに取り上げてもらうにあたっては、そもそもメディアは何故存在しているのかを紐解くと考えやすい。社会に対して有益な情報を発信するのがメディアじゃないですか。となると、社会に対しての存在価値をコンテンツがきちんと内包していればメディアは取り上げるんです。

僕はいつも、自分のアイディアはこれらの点をクリアしているのかと考えながら企画をしています。

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横石 つくったものを受け手がどう感じるか考え抜くわけですね。

眞鍋 はい。だから、仕上がりを予想する力は結構大事かなと思いますね。特に映像の場合はそうです。シェアしてもらうには、どういうふうに映像を構成していけばいいかが分かるといい。僕もかなり演出を考えながら企画をしています。Part1で取り上げた「世界最速の新聞配達」はIKEAの『Lamp』という作品がベースにあり、「こういう構造で大どんでん返しになると、みんながおもしろいと思ってくれるだろうな」という設計図があった上で企画しました。

演出を考えながら企画するのは、九州のクリエーターの特徴なのかもしれません。九州ローカルだと予算的な制約もあって、一人で全てをこなさなければならない。コピーを書いて、プランも考え、ディレクションもするから守備範囲が広くなります。

一方、東京のプロジェクトに入ると、スタッフの人数が多い。じゃあ眞鍋君プランやって、コピーはこの人が書くから、みたいに。そういうスタイルが多いからなのか、企画と演出が合わさった時のことまで考えられている人が企画者にはあまりいない気がします。逆に、今いい作品をつくっている人たちは、そこができている人たちということなのでしょうね。

横石 イノベーションは辺境の地で起きるという話がありますが、まさに九州はすごくおもしろいクリエーティブが生まれるじゃないですか。東京や大阪よりも枠をはみ出したユニークなものが生まれている気がします。何故なのかなと思ったら、広告費が少ないというのがあるのかなと。

眞鍋 それはかなりあると思います。まず、予算というハードルを超えなければいけない。広告費が少ないという状態がデフォルトなんです。加圧トレーニングと一緒で、予算がない中で鍛えている分、強くなっている部分はあると思いますね。アイディアは、制限とか抑圧とかハードルがないと生まれません。今、九州のクリエーティブシーンで目立っている人は、メインステージでマス広告をガンガンやってきたというタイプがあまりいなくて、いわゆる別ラインからやって来た人が多い印象があります。デジタルプロモーション部門から入ってきた人のように、制約が多い中で何とかしようと苦闘してきた人たちが、おもしろい話題をつくっているのではないかなと思いますね。

横石 福岡、ますます盛り上がってきていて、おもしろいですよね。クリエーターにとって、もしかしたら聖地になるかもしれません。既になっているのかもしれないけど。(了)

>Part1:「コンテンツ発想がコミュニケーションを変える」を読む

 

眞鍋海里(まなべ かいり)
BBDO J WEST、CUTTING EDGE コンテンツプランナー。1982年、宮崎市生まれ。大学卒業後、タワーレコード、WEBプロダクションを経て現職。従来の広告手法にとらわれず、”コンテンツ発想”を軸に次々と話題を生むコンテンツプランナー。AUTOWAYのWeb動画「雪道コワイ」は全世界で1000万回以上再生され話題に。最近では、paymo「Table Trick」、KIWI「ハイパーキックOL」、集中リゲイン「The Extreme Minuet」、「白衣は何人?」などの動画企画から、Instagram×スキンガード「Hidden Scary Summer」、ドラマ「ガチ星」スマホ連動施策、密室ホラーハウス「訪問者」プロデュースなどを手がける。
横石 崇(よこいし たかし)
& Co.(アンドコー)代表取締役/TOKYO WORK DESIGN WEEK オーガナイザー。NHKなどで「若者がつくる未来」の象徴として取り上げられた、のべ1万人を越える参加者が集まる、新しい働き方の祭典「TOKYO WORK DESIGN WEEK」代表。1978年生まれ、多摩美術大学卒。テレビ局・新聞社・雑誌社・ポータルサイトなど様々なメディアサービスにまつわる新規事業開発を手がけるほか、コミュニティを軸にしたマーケティング戦略に注力。企業の組織開発や人材育成に携わるなど、クリエーティブ・オーガナイゼーション・カンパニーの会社経営者として9年目を迎える。2016年5月より「& Co.,Ltd(株式会社アンドコー)」を新設。2014年より、『WIRED』日本版のコミュニティ・コントリビューションを行う。編著書に「これからの僕らの働き方」(早川書房)。

CATEGORY:イベントレポート

DATE:2017-05-29

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