イベントレポート

「デザイナーの育ち方、育て方講座。第2弾」〜新卒入社5年目のデザイナーの全仕事、ボツもカンプも大公開。~イベントレポート


グラフィックデザイナーって有名になれるの? アートディレクターってどうすればなれるの? グラフィックデザイナーを目指す学生や若手デザイナーが抱くキャリアの疑問に答えるべく、BUDDYZでは「デザイナーの育ち方、育て方」をテーマにトークショーを開催しました。

登壇したのは、大胆なアイデアとユーモア溢れるクリエイティブで数々の広告を手掛ける株式会社DODO DESIGNの代表取締役社長・クリエイティブディレクターの堂々穣(どうどう・みのる)氏と、この4月に同社のチーフデザイナーとなったばかりで入社5年目の浅田麻弥(あさだ・まや)氏。彼女が入社からどう成長したのか、その変化の過程について、師匠である堂々さんの見解も交えながら紐解いていきたいと思います。

プロとしてお金をいただくことの大変さを知った最初の2週間

BUDDYZ 浅田さんがDODO DESIGNに入社したきっかけは何だったんですか?

浅田氏 就活が全然うまくいかなくて困っていた時に、大学の先生からDODO DESIGNのことを教えてもらったのがきっかけです。京都からバスに乗って面接に行ったのですが、面接の印象は最悪で…。

BUDDYZ えっ!?

堂々氏 当時は今のオフィスではなくて、薄暗いマンションの一室でしたし、「この会社大丈夫なのかな」という気持ちはあったと思うんですよ。

浅田氏 いや、そうじゃなくて、最悪だったのは私の方です(笑)。この会社がダメだったら就職浪人しようと思って挑んだのに、見せた作品に対する反応が今イチで、「これは終わったな」と。爪痕を残せなかったように感じて、しくしく泣きながら帰ったんですよ。

BUDDYZ でも今、ここにいるということは。

堂々氏 決め手はポートフォリオと、その後に出した課題がよかったことですね。でも、一番は人間性。佇まいというか雰囲気というか、一緒に働きたいなあと感じたので、それが大きかったですね。

BUDDYZ 今日は「初仕事」を持ってきていただいたんですよね。

浅田氏 はい。鰹節やだしの製造販売を行っているにんべんさんの新業態のパッケージの仕事で、そこに入れるためのロゴのデザインを任されたのが最初の仕事です。一番最初に作ったロゴはとにかくひどくて…。

堂々氏 いくら美術大学で学んできても、やっぱりプロの現場でお金をもらうとなると、そう簡単にはいかないものです。お金をもらえるクオリティに上げるのには、それなりに時間はかかりましたね。でも、その最初が肝心だと思っているんです。プロフェッショナルとしてお客様からお金をいただくというのがどういうことかを体感してもらうというか。最初は、2週間考えてこれかよ、といらつく気持ちも正直あったのですが(笑)、ここは投資だと思って温かく見守っていました。

BUDDYZ 浅田さんにとってはどんな2週間でしたか?

浅田氏 魔の2週間でした(笑)。何をどう考えてもダメで。毎日ひたすら鰹ばかり描いて、でもなかなかうまくいかなかったという記憶ばかり残っています。

堂々氏 少しずつ、ダメなところからブラッシュアップしていいものにしていったんですよね。でも、ガッツがありましたね。これはデザイナーに限りませんが、「粘り強さ」「諦めない気持ち」は仕事の基本じゃないですか。そういう意味では、浅田さんには「素質があるな」と感じたんです。

休みの日も街に出てデザインの研究!

BUDDYZ その後は、すごい早さで仕事の幅を広げていかれたと伺いました。

浅田氏 長崎県にある九十九島のロゴのお仕事や、JR東日本さんの仕事でミネラルウォーターの10周年記念ボトルのデザインなども担当させてもらいました。特にボトルデザインでは、弊社のグラフィックが得意な他のスタッフなどにも協力してもらって、いろいろなアイデアを考えたのが楽しかったですね。

堂々氏 長崎ラバーズの案件も印象的でしたね。

浅田氏 長崎にはいいところがたくさんあるのにあまり知られていないので、地元の人に発信してもらおうというプロジェクトでした。そのために、「それぞれの長崎のここが好き」を書き込めるようなシールなどをデザインしました。

堂々氏 この案件が来た時に、「これは浅田にお願いしよう」と思ったんです。マーク系のデザインは、本人も好きで得意だと思っているのと、とにかく浅田はデザインを研究しているんですよ。時間があったらギャラリーに出掛けたりして。あと、浅田が持っている本がとにかく面白いんです。

BUDDYZ どんな本ですか?

堂々氏 古書ですね。

浅田氏 休みの日に古書街に足を運んで、ちょこちょこ買ったりしています。デザインを見るのも好きなので、本に限らず普段から看板とかもずっと見ていますし、気になったものは写真を撮ったりもするんです。何にでも面白がれるタイプなのかもしれません。

堂々氏 その長崎のプロジェクトがきっかけで、京都の下鴨で行った子供向けのワークショップの仕事でエプロンのデザインをしたり。仕事が仕事を呼ぶ感じで、いろいろと広がってきましたね。

DODO DESIGNがこだわる「提案の仕方」とは?

BUDDYZ 今日はたくさんのカンプを持ってきていただき、会場を取り巻くように貼らせてもらったのですが、どれも普段は見ることができない貴重なものばかりですね。

堂々氏 ドミノピザさんのパッケージのフルリニューアルの案件は、浅田を入れて3人のデザイナーに関わってもらいました。

BUDDYZ ちなみに、この件に限らず、デザインのオーダーのされ方はどういう感じなのですか?

堂々氏 昔は私も、課題が整理されていて分かりやすい状態でオーダーが来るのかなと思っていたのですが、実際のところはクライアントによりけりです。課題そのものが漠然としていたり、逆に言いたいことが盛りだくさんだったり、難しいなと感じる場面は多いです。なかなか一筋縄ではいかないものなんだというのは、特に学生さんには分かってもらいたいところですね。

BUDDYZ デザインを提出する際に気をつけていることがあれば教えてください。

堂々氏 今回持ってきたカンプの数からお分かりいただけるかと思いますが、「とにかくたくさんのアイデアを出すこと」ですね。クライアントの要望を元に、あらゆる可能性や方向性をクライアントに提示することをデザイナー全員の共通認識にしています。「これ以上出ない」というところまで考えて、それを思いっきりクライアントにぶつけるんです。

浅田氏 紀伊国屋さんの案件で作ったカレーのパッケージもそうですね。

堂々氏 あともう一つ、企画書ですね。プレゼンの時は、「こういうテーマで作りました」みたいなキーワードを前振りで出して提案するようにしています。それには理由があって、人は他人の話の2割くらいしか聞かないし記憶に残らないんじゃないかと思っているんです。だから分厚い企画書に詰め込むのではなく、なるべくシンプルに、記憶にブスッと刺さるような提案、デザインを常に心掛けています。

浅田氏 そうするうちに、提案資料もどんどんシンプルに削ぎ落とされていき、カレーのパッケージの提案の際は、最終的にはキーワードのみ書いた3枚の文字札だけになったんです。

BUDDYZ もう1つ、映画館で使うドリンクのカップのデザインのカンプを持ってきてもらいました。

堂々氏 これはTOHOシネマズさんからの仕事で、先日オープンしたばかりのミッドタウン日比谷の映画館で採用していただいたデザインですね。

浅田氏 これもあらゆる可能性を探るために、写真、イラスト、グラフィック、タイポと、全部を洗い出してたくさんのアイデアを提案しました。そこから選んでいただいたものなので、ぜひTOHOシネマズ日比谷に行った際は見てもらえると嬉しいです。

上から目線の育て方では、人は育たない

BUDDYZ 最後に、DODO DESIGNが実践している「育て方」について教えていただけますか。

堂々氏 まずは「率先垂範」。これに尽きるかなと思っています。自分を律して一生懸命にやる姿を見せることで、下は育っていくという考え方です。「育てよう、一人前にしてやろう」というような上から目線では人は育たないということを、私は体験として持っているという感じでしょうか。

仲間とはどうやって一緒に働いているかというと、スポーツやトレーニングのようですが、「限界まで追い込む」んです。そこまでやって初めて、力がついてくると思っています。同時に、自分でとことん打ち込むという、誰にも負けない努力をする時間を持つことも大事なのかなと考えています。

さらには、主体的に考えて働いてもらいたいので、アシスタントではなく、入社したその日からアートディレクターとしてのマインドを持って仕事をしてもらうようにとは言ってますね。

浅田氏 それは私もよく言われましたね。

堂々氏 礼儀礼節を重んじるというのも、うちがすごく大切にしていることです。謙虚でいる、人として素晴らしい人間性を持つ、というのは簡単なことではありません。しかし、「持とうじゃないか」と皆で思って行動することが大事なんだと考えています。それはお客様にきちんと挨拶をするとか、ちゃんと返事をするとか、小さい頃に習うような当たり前のことなのですが、「当たり前をきちんとできるようにしよう」というのは細かく指導するようにしています。

BUDDYZ デザイナーは転職を重ねてキャリアを作っていく人が多いですが、その点についてはどのようにお考えですか?

堂々氏 うちではできるだけそうさせないように努力しています。「3年働いたら心機一転、環境を変えたい」という気持ちもわからないことはないのですが、結局はそのたびにキャリアがリセットされてしまうんです。だから、これは経営者としての考え方ですが、なるべく継続して働けるように自社の環境を整えたり、「何かこの会社にいると面白いなあ」と思ってもらえるような事業展開、会社運営を心掛けていますね。

人の成長というのは、穏やかだったり、突然グンと伸びたり、どうなるのか予測できないものだと思います。だからなるべく寛大な気持ちで穏やかに見守るようにしています。何でも話しやすい環境を作ったり、突き放さずに寄り添うのは当たり前ですが、一方で「ダメなものはダメ」という厳しいスタンスを持つことも大事だと考えています。

参加者からの質問タイム

「せっかくの機会なので、聞きたいことがあればどんどん聞いて下さい」と堂々氏が促すと、たくさんの挙手が。いろいろな質問が出ましたが、その中からいくつかをご紹介します。

Q.浅田さんに質問です。ロゴのデザインが得意なのは、最初からそうだったのですか?それとも経験を積む中でそうなっていったのですか?

浅田氏 入社するまでロゴを作ったことはなかったので、仕事として回数を重ねていくうちにそうなりました。「強み」というか、自分としても好きなジャンルの仕事だなと思うようになったんです。

グラフィックやビジュアルを1枚作るのに比べて、ロゴは長く使っていただけるケースが多いですよね。街で見かけることもあったりするので、やっぱりロゴは好きですね。

Q.DODO DESIGNが手掛けるものは、キャッチーでポップで皆に好かれるようなデザインである一方、どの作品にも「特徴的なフック」があるような気がしています。完成したものがそうなるのは、社内で何かしらのマインドセットをしているからなのでしょうか?

堂々氏 特に決まったルールはありません。ただ、一つ気をつけているのは「入り口を間違わない」ということ。それはつまり、入社する際の人選です。うちのデザインの世界観が好きかどうかを見誤らない、それが一つのルールかもしれません。

ただ、全く同じものが好きだということはあり得ませんから、「今ならこういうものがいいんじゃないか」「これが流行っているから取り入れてみる?」といった感じで、私の方でさりげなくでも引っ張っていくことは意識していますね。

それぞれに好きなデザインがありますから、そういう話は普段から皆でしますし、私もそれを聞いて受け入れるようにしています。そのうえで、「あそこのお店のデザインがすごくよかったので行ってみなよ」「この本が面白かった」「この映画はおすすめ」といった話は普段からするようにしているので、私を介してそういうやりとりをしているというのは影響として大きいのかもしれません。

Q.浅田さんへの質問です。私は今2年目のデザイナーで、仕事でロゴを考えていても、なかなかいいものが浮かびません。これは経験を積めば何とかなることなのでしょうか?それとも、そもそも考え方を変えるべきなのでしょうか?

浅田氏 私の場合ですが、回数を重ねていくうちに実際には通らなかった案が増えてくるので、それが肥やしになっているように思います。「あの時には使えなかったけど、今回のには合うんじゃないか」と思って試してみるとうまくいくことが結構あるので、引き出しはそうやって増えていくのかなと感じています。

もちろん、たとえば日頃から形について研究したり、いろいろなものを見ることももちろん大事です。案件をいただいてから考えるよりも、日頃からの積み重ねが大きいのではないかと思います。

Q.先ほど、最初に考えたロゴと完成形のロゴを見せていただきましたが、実際に最終のデザインになるまでにどういう過程で進んでいくのか、あとはダメなところはどう伝えて直していくのか、といったことが知りたいです。

堂々氏 ほとんどの場合、サンプルを見せるなど、着地するクオリティのレベルを共有しながら指導していきますね。もちろん、「このラインをもっとキレイにしよう」といったディテールの話もしますし、配色についても具体的にアドバイスすることもあります。でも、やっぱり一番は「ゴールイメージを共有すること」だと考えています。

Q.入社4年目のデザイナーで、今後は下の子の面倒を見たり指導することが増えていくのかなと感じています。堂々さんはどうやってデザイナーの個性を伸ばしているんでしょうか?

堂々氏 正直なところ、最初は個性を押しつぶしてでもいろいろなことを教えるべきだと考えています。だから極端に言ってしまうと、アシスタントの時期は個性がつぶれても仕方ないと思っています。

でも、個性って抑えきれないものではないでしょうか。私自身、35歳くらいまではすごく抑圧されたスパルタな環境にいたのですが、だからといってそれで個性がなくなったとは思いませんし、自分の好きなものがは揺るぎないわけです。上に立つ人としては、最初は時期的にしょうがないと割り切って、「こういうふうにやってみては」ときちんと教えてあげることが大事だと思います。

Q.社員10人ほどのグラフィックの仕事が中心のデザイン会社に勤めています。「ウェブやデジタルにも広げていきたいよね」という話をここ数年ずっとしているのですが、なかなかできていません。DODO DESIGNではグラフィックから空間デザインなどに広げていらっしゃいますが、そうしたノウハウはあらかじめ貯めていたのでしょうか?それとも、仕事を受けてから勉強したのですか?

堂々氏 来るべき時、チャンスがあった時に絶対にやってやろうと、準備はしていましたね。一番のきっっかけになったのが、自社のオフィスのデザインでした。建築家にも入ってもらって一緒に作っていったのですが、進めていく過程で仕事を見ていると建築のだいたいの流れがわかったことで、「これなら自分たちにもできそうだ」と思えたんですね。

いつどこでチャンスが来るかはわかりませんが、来た時に思いっきりフルスイングできるように準備していくというのは、どの仕事においても意識していることかもしれません。

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今回のイベントでは、プレゼン資料やカンプ、ボツアイデアといった「デザインの制作過程」を見ることができたため、特に若手デザイナーや学生にとっては、貴重な経験になったはずです。普段は絶対に叶わない「渾身の種明かし」は、非常に興味深かったに違いありません。

もちろん、いつものようにDODO DESIGNがこれまでに手掛けた作品を自由に手に取って見れるように展示台も用意。クオリティの高い作品の数々に触れたことで、自身のクリエイティビティを刺激された人も多かったことでしょう。

BUDDYZではこれからも、クリエイティブ業界で働く方、目指す方を対象としてイベントを開催する予定です。ご興味のある方は、ぜひご参加ください。皆様にお会いできることを楽しみにしています。

CATEGORY:イベントレポート

DATE:2018-04-26

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